専門家の皆様へ
本サイトは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の委託研究「児童・思春期における心の健康発達・成長支援に関する研究」代表研究者水野雅文(東邦大学)により運営するものです。
本研究の基本構想
(1)研究開発の目標・ねらい
本研究班はこれまで精神疾患の早期発見、早期支援についての研究を行ってきた各地の大学から成るAMED研究班と、児童思春期特に幼児から小中学生を対象に研究を進めてきた精神保健研究所児童・予防精神医学研究部、地域・司法精神医療研究部がチームを組み、下記の課題に取り組んでいる。
各分担研究施設はこれまでも児童思春期の心の健康問題に関連した研究活動を行っており、地元地域に独自の協力ネットワークを持っている。それらを生かして、小学校から大学までの各段階における実態を把握し、社会実装可能な心の健康づくりを推進するための具体的なプランを開発する。
本研究テーマである「心の健康づくり」推進上の根本的かつ実際的な困難点は、心の健康課題そのものが今日なお多様なスティグマの対象であり、実態把握や現場の支援という取り組みそのものの実施においても、受け入れ側には大きな温度差が存在している。
従って、本研究の成果物としては、①-⑥の各論を実施するにあたって、具体的にどのように意義を説明し理解を得て実施するかなどを具体的に解説した⑥わが国の社会実装に適した「心の健康発達・成長支援マニュアル(手引き)」の作成が、(3)で述べる将来的発展に資する上でも極めて意義ある成果と考える。
① 小学生~大学生(6 歳~ 20 歳頃)の心の健康問題とその対応に関する実態把握と好事例の収集
各分担班においてすでに関係性のできあがっている教育施設(学校)を中心に実態把握を行い、好事例について分析する。すでに数カ所のモデルがある。
② エビデンスに基づく心の健康教育プログラム
教科外での講義時間は極めて限られている中で、心の健康教育プログラムは各地で度々試行的に実施されている。これまでの先行実績をできる限り収集し諸家の見解を集約し、何年生に何を教えるかを、その他の教科により得られる知識と併せて検討し、実施可能性を確認する。ただし実現には新しい学習指導要領との整合性が求められる。詳しくは、文末に示す「平成30年度調整費で実施する研究内容」を参照いただきたい。教員側への援助も重要で、授業計画の立案などにかかわり、モデル授業などを提示することも試みる。
③ 学校健康診断における心の健康評価ツール
健診ツールとしては、国際的に広く用いられ、国際比較が可能な児童思春期の精神保健全般に関する尺度The Strengths and Difficulties Questionnaire (SDQ) (http://www.sdqinfo.org/, 分担研究者神尾陽子らによって日本での標準化は済み、厚生労働省ホームページでも公開されており、無料で使用可)を採用し、各分担班が実施し、現場における利便性、実行可能性についても検討を加える。疾病性の早期発見を行うには、別途追加項目が必要であり、それについても検討する。さらに、自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder(ASD))などの神経発達障害およびその併存症と、精神病発症危険状態(At-risk mental state(ARMS))あるいは(Attenuated psychosis syndrome, APS (DSM-5))との鑑別に役立つ鑑別ツールの開発のための体制を整える。後述する保健調査票の記入項目案も再検討する。
④ 研究代表者らによる平成26-28 年のAMED 研究「精神疾患患者に対する早期介入とその体制の確立のための研究」のガイドラインに基づいた地域モデルの試行
具体的には各分担班において、前述ガイドラインをもとにした各地における各種機関の連絡ネットワークの形成と専門家向け講習会を実施する。それらを通じて、医療機関、保健所、教育センターなどどの専門機関にどのようにつなげてよいか、あるいは学校をプラットフォームとして学校医や地域医療機関がどうサポートするか、学校保健委員会をどう活用するか、など学校内に多機関が要請に応じてサポートできるような、教師や養護教諭が具体的に活用できる仕組みの提案や対処マニュアルの作成(①)を行う。
⑤ ケースマネジメント手法の開発
本研究対象の若年者は、児童期、思春期、青年期にわたる。ケースマネジメント手法の好事例を募り、具体的な手法を開発する。精神障害の診断がなされるよりも早くからリスクを負った家族への育児も含む心の健康支援あるいは予防や脆弱性の補完を目的とした地域支援の一環として、多職種チームによるケースマネジメント体制のあり方を示す。
⑥ 総合成果現
現場で使える「心の健康発達・成長支援マニュアル(手引き)」の作成(上述)
(2)研究開発の将来展望
- 心の健康教育・精神保健における最も基本的な取り組み方に関する基本方針の確立
- 学校健診などにおける“心の健康診断ツール”とその運用方法に関する具体的な手法の確立
- 児童期~成人期の狭間で生じるひきこもりや不登校など、心の健康課題に何らかの機能不全があると推測されるケースへの包括的な取り組み
- 地域における早期発見・早期支援方法に関するモデル事業的取り組み
- 神経発達障害圏と精神病発症危険状態(ARMS)の鑑別と生物学的マーカーの発見
などに資すると考える。
(3) 平成30 年度調整費で実施する研究内容
- 教育現場では、児童・思春期の心の健康問題には様々なケースがあり、それに応じた教育現場における児童・思春期の学生やこどもの相談支援方法の対策が急務であることが判明してきた。
- また子ども・若者の自殺対策の推進が求められており、精神保健上の問題を抱える児童生徒に対する適切な支援体制の構築は喫緊の課題である。
- 教育現場における精神保健の課題が深刻化し対策が急がれる中、地域・教育現場と精神保健専門家を繋ぐネットワーク、さらに専門的アドバイスをめぐり双方向性に発信できるシステムの構築により、現場に専門的アドバイスを届けより適切な対応を進めるとともに、現場の教育関係者の心理的負担を軽減することが大きな課題となっている。
そこで本調整費により、
- ①︓学校と地域をつなぎさまざまな精神保健相談の実施をするための遠隔相談システムの開発とフィージビリティ試験を実施
- ②-1︓当該システム上あるいは、精神保健関連授業や保健室などでの個別指導においても使用可能な、児童思春期を対象とする精神保健教育資材の開発
- ②-2︓その開発に必要な生徒、父母、教職員の精神保健に関するリテラシーの調査
- ②-3︓その使用に伴うリテラシーの変化に関する検討
等を行う。
各種資料等の開発に際しては、令和4年に予定されている学習指導要領の改訂に合わせ新カリキュラムにおいても十分に活用可能な内容とする。